「特別な日なのでごちそうします」新幹線の中から打っているらしい彼からのメールが届く。
“特別”って何? 彼の職場がまた横浜に戻るとか? でも、まだ赴任して1年もたってないし、それはないか。
待ち合わせの場所に着くと、彼はヨコハマスカイのレストランを予約しているといった。ただ、まだ少し時間がある。「あそこにいってみたい」と私は上の階にあるパティオに誘った。
そこは2層吹き抜けになって、ガラスで囲まれた可愛らしいガーデンがある。気になってはいたのだけれど、いつもは通り過ぎるだけ。フロアにはイスもあったし、どうせならあそこで待ってみるのも楽しいんじゃないかと思ったのだ。
エレベーターで最上階へ上がると、まだディナータイムには少し早いのか、パティオはひっそりとしていた。「今度はこのお店もいいな」なんて話しながら29階をぐるりとまわってみる。
そして、腕を組んでガーデンのあるフロアへと階段をおりた。
「なんだか結婚式みたい。あるじゃん、ガーデンウエディングみたいの」
一瞬、彼の肩に力が入ったような気がした。
ちょっとふざけてパパパパーンと結婚行進曲を口ずさんでみる…と、人の気配を感じた。
「ヤバい、人きた。こっち見て笑ってる」
「はずかしー」
レストランに入ると、夜景の見える席へと案内された。例によって彼が何かを企んでいるのはわかる。心あたりといえばアレだけど…まさかね。
いつもはビールの彼もシャンパンで乾杯をする。ゆっくり運ばれてくるコース料理をひとつひとつ神妙な顔つきで食べていた彼が急にしゃべりだした。
「あのさ、おれ浜松いってから、けっこう家事とか得意になっちゃったんだよね」
「なによ、それ」
「うまいよ、料理とか」
「は?」ほんとに“特別”って何なのよ?
「あのさ、浜松来ない?」
「先月行ったばっかりだけどいいの?」
「いやそうじゃなくて」彼がジャケットのポケットから何かを取りだして私の手元に置いた。
「あのさ、これ。受け取ってほしい」
何が入っているかなんて聞くまでもないと思った。指輪が入っているに違いないケースを見つめたまま、頭の中が真っ白になった。そしてはっと我に返ると、今度はどんな顔をしたらいいのか、何をいったらいいのかがわからなくて顔が上げられない。
「いつもこう。急にそんなことしたら、お料理食べらんなくなっちゃうじゃん」
結局、いつもの憎まれ口でごまかそうとしたけれど、おしまいのほうは声が潤んでしまう。彼に涙を見られないように窓の外を見ると、横浜の夜景が私を励ますようにきらめいていた。
さあ、彼の目を見ていおう。ありがとうって。