こうして久しぶりに向き合ってお茶を飲んでいると、
何も変わっていないような気がする。
「ちょっと太った?」彼が正面から私を見て、いたずらっぽくいう。
「そんなわけないじゃん。外食とかもすっかり減っちゃったしさ」
「どうして?」
「だって誰かさん、さっさと転勤しちゃって会えないじゃん。
メールだけじゃお腹はいっぱいになりませんからね」
彼と会うのはゴールデンウィーク以来のことだった。私たちが付き合いはじめてから、こんなに長い間会わないでいたことはこれまでない。いつもと変わらない彼ののんびりした様子に私は安心した。
彼が転勤になったのは今年の春のことだった。赴任先が海外だとでもいうのなら、それこそドラマチックな展開になったりもしたかもしれないけれど、なにぶん浜松ではヒロインを気取るわけにもいかない。そういうわけで私たちの中距離恋愛はけっこうあっさりとスタートした。でも、彼だって横浜に実家があるとはいえ、そうそう帰ってこられるわけでもないし、残業も多いから電話で話す時間にも限度がある。自然とメールでのやりとりが増えていった。
大きく口をあけてケーキにパクつこうとすると彼と目が合った。
「元気そうでよかった」カップを口元に運びながら彼がくすりと笑う。
「うん。なんか、あんま変わらないよね」
彼が引っ越していってからも、私は仕事を終えると友達と会ったり、ひとりで地下街をぶらぶらしたりしてから帰った。ただ、ひとつ変わったことといえば、ひとりのときには近寄らない場所ができてしまったことかもしれない。
さっきも待ち合わせをした地下2階の大型ビジョンのところ――。
はじめて彼と2人だけで待ち合わせをしたのもそこだった。屋上にカメラがあるのだろう。画面にはキレイな夕暮れのみなとみらい地区が映っていた。でも、それよりも印象的だったのはそこで待っていた彼だ。足早に人々が行きかう中で、彼だけが立ち止まって画面に見とれている。なんだかとても子どもっぽく無防備な後姿がおかしくて、私は笑いをこらえながら彼に近づいていった。初デートの緊張感もどこかへいってしまった。
ひとりでそこを通りかかるとどうしても彼のことを思い出して、寂しいような不安なような気持ちになってしまう。そのことを話そうかと思ったけれどやめておいた。そして、「思ったほど変わらない」と今度は自分にいいきかせるようにつぶやいてみる。
私たちはカフェを出ると、エスカレーターで地下街まで降りた。腕を組んで歩きながら、ふっといま大型ビジョンの下を通ったことに気づいて振り返る。
画面には久しぶりのデートを祝福するように、横浜の夜景が瞬いていた。
グルメストーリー 第2話へ続く ...